夢って不思議だね、こんなにある幻想物語

サヴァイヴィング ライフ 夢は第二の人生

鬼才ヤン・シュヴァンクマイエルが描く、とある男の第二の人生を描いた長編映画作品として2010年に公開された。当作品は第67回ヴェネツィア国際映画祭にてコンペティション外で公開された作品となっている。

作品のモチーフとなったのは監督自身が見た夢をモチーフにした作品となっている。では作品のあらすじを紹介していこう。

あらすじ

主人公のエフジェンはあまり仕事のできない男性で、家に帰れば小言が多い妻・ミラダの愚痴を聞かされる日々を送っていた。そんな彼の楽しみと言えば寝ることしかなかった。

そんなある日、寝ていたエフジェンは夢の中でエフジェニエという名の美しい女性に出会う。彼女に誘われるままに部屋を訪れて大機あっていると、彼女の息子であるペトルに見つかってしまう。気まずい気分で目覚めたエフジェンだったが、夢の記憶が気になってしまい、カウンセラーのホルボヴァー意志を尋ねてみる。

彼女のカウンセリングによって、エフジェンが幼いころに両親をなくしており、自動養護施設で育てられた経験が関係していることが判明してくる。夢の操作方法法に関する本を探し始め、自分の意志で夢の世界にだいぶする方法を見つけ出す。誰にも邪魔されないように、夢の世界に入るためだけに元写真家の老人のスタジオを借り始める。

それから、妻には会社に行くとうそを言って、夢の中へ出かける日々が始まっていく。とある夢の中では宝くじに当選して、エフジェニエに豪華なアパートを買い、また違う夢では自分にそっくりなエフジェニエの夫身ランという若いおところが現れ、宝くじの賞金の半分を渡せと脅される。

ミラダは、様子がおかしい夫の講道を疑い始めており、尾行することを決める。ホルボヴァー医師を浮気相手と決め付けるが、主人が二重生活を送っているという常劇的な事実を聞かされてミラダは愕然とする。遂にスタジオでエフジェンの儀式を盗み見したミラダは、夫のまねをして彼の夢の中に入り込んでいく。

ミラダの講道で夢と現実の区別が付かなくなっていく、果たして二人は現実の世界へと無事に戻れるのだろうか・・・・・

という内容になっている。

夢をテーマにしている分、どことなく現実味を帯びていないストーリー性となっているので、これ単体をファンタジーと考えれば分かりやすいだろう。

キャスト

  • エフジェン/ミラン ヴァーツラフ・ヘルシュス
  • エフジェニエ    クラーラ・イソヴァー
  • ミラダ       ズザナ・クロネロヴァー
  • 老女(超自我)   エミーリア・ドシェコヴァー
  • ホルボヴァー医師  ダニエラ・バケロヴァー

スタッフ

  • 監督・脚本   ヤン・シュバンクマイエル
  • 撮影      ヤン・ルジチュカ・ユライ・ガルバーネック
  • アニメーション マルティン・クブラーク・エバ・ヤコウプコバー・ヤロスラフ・ムラーゼック
  • 音楽      イボ・シュパリ
  • 編集      マリエ・ゼマノバー
  • 衣装(デザイン)ヴェロニカ・フルバー
  • プロデューサー ヤロミール・カリスタ
  • 字幕      阿部賢一

ヤン・シュバンクマイエル

本作品の監督兼脚本を務めている『ヤン・シュバンクマイエル』は、チェコスロバキア・プラハ生まれのシュルレアリストの芸術家・アニメーション作家・映像作家・映画監督などをしている鬼才である。

彼は1934年にプラハで、陳列窓の装飾家である父と裁縫婦の母との間に生まれる。1954年にプラハの工芸高等学校を卒業し、チェコ国立芸術アカデミー演劇学部人形劇科に入学する。ここでいくつかの演劇作品に関わり、1958年から1960年まで兵役についた後、シュルレアリストとして知られる現在の妻であるエヴァ・シュヴァンクマイエロヴァーと結婚する。

その後仮面劇や人形劇の仕事を続け、またこの頃からシュルレアリストとしてオブジェの製作を始めた。

その後のラテルナ・マギカに移り、1964年にクラートキー・フィルム・プラハで最初の映画作品『シュヴァルツェヴァルト氏とエドガル氏の最後のトリック』を発表する。以後、多くの短編映画作品や『アリス』・『ファウスト』などの長編作品を制作している

作風

作品では『食べる』という行為を頻繁に扱っているが、作中に登場する食べ物はまずそうに見えたり、執拗なまでに不快感を催すような尾車がされたりしている。例えば、とある人がものを食べるときに、口を画面いっぱいに広がるぐらいにズームして強調するといったことだ。こうした描写にする理由のひとつとして、本人が『子供のことから食べるということが好きではなかった』からという、幼少期からのトラウマが元となっているようだ。『色』に関わるもの以外では、性的なメタファーが多く用いられている他、両開きのダンス・引き出し付きの木の机・動く肉片や衣装など、複数の映像作品を繰り返し登場するモチーフが特に目立っている。人間の運命や行動が何者かに『不正操作』されている、といった自身のイメージを投射した作品も数多く発表している。

シュヴァンクマイエルは『戦闘的シュルレアリスト』を標榜しており、社会主義・全体主義・商業中心主義などに抵抗を試みる作品・発言が多い。政治的な主張が多く含まれている作品も多く、それらは検閲を回避するために非常に実写・アニメともにストップモーション・アニメーションを多用し、CGなどは一切利用しないアナログ主義者となっている。

シュルレアリスム

さて、シュバンクマイエルについて述べているが、時々出てくる『シュルレアリスト』というのは何なのだろうか。

これは20世紀に誕生した芸術思想の1つとなっており、『シュルレアリスム』というのが本来の言葉となっている。日本語訳では『超現実主義』と訳されている。

この思想が誕生した発端は1924年にまで遡る。これ以前にもアルフレート・クービンなどがシュルレアリスム的な作品が登場しているが、その時はまだ思想としては概念化されていなかった。

シュルレアリスムを先導したのは詩人達となり、後に運動のリーダーとなるアンドレ・ブルトンを始め、ルイ・アラゴンやフィリップ・スーボーなど、多くの詩人達が一度はかじっていたが、時代の雰囲気から触れていたというものが多い。

この頃先に誕生していたダダイスムとも関係性を持っており、ダダイスムに参加していた多くの作家がシュルレアリスムに移っているという事実からも伺える通り、既成の秩序や常識などに対する反抗心という点において、思想的につながっているためだった。

日本におけるシュルレアリスムの詩人としては瀧口修造が有名だが、日本ではシュルレアリスムという思想事態が語られることは現在においても少ない。芸術関係の道を歩いている人でなければ聞かないような思想のため、一般人でも知らない人が多いだろう。

シュルレアリスムは、思想的にジークムント・フロイトの精神分析の強い影響下に、視覚的にはジョルジョ・デ・キリコの形而上絵画作品の影響下にあり、個人の意識よりも、無意識や集団の意識・夢・偶然などを重視している。子のことは、シュルレアリスムで取られるオートマティスムやデペイズマン・コラージュなど偶然性を利用し主観を排除した技法や手法と、深い関係にあると考えられることが多い。

しかしそんなシュルレアリスムの運動事態も終わりを迎えることになるが、その時期に関しては諸説存在している。

  • 第二次世界大戦が終わった1945年までとする説
  • 先に述べた運動の帝王とも呼ばれていたブルトンが死去した1966年までとする説
  • ブルトンの死後も続いていたとする説

といったような複数の説がある。一番初めに述べた説の中には、第二次世界大戦以前の運動に参加したものの戦後の活動のみをシュルレアリスムと認める説と、戦後に活動を開始したものも含める説の二つが存在している。戦後の切に関しては幻想絵画との境界線に付き、色々な説が飛び交うことになる。

シュバンクマイエルはそんなシュルレアリスムの思想家として現在も活動している数少ない『シュルレアリスト』である。

作品一覧

長編

  • アリス(1988年) - ルイス・キャロルの『不思議の国のアリス』を原作に、大胆に脚色した作品
  • ファウスト (1994年) - ファウスト伝説を、現代のある男に起こる悪夢のような経験として再構成した作品
  • 悦楽共犯者 (1996年)
  • オテサーネク 妄想の子供 (2000年) - チェコの民話、食人木「オテサーネク」を取り上げた作品
  • Lunacy ルナシー (2005年) - エドガー・アラン・ポーの「早すぎた埋葬」、およびマルキ・ド・サドの人物像・作品世界をモチーフとしている。本作の完成後の2005年10月20日に、妻・エヴァ・シュヴァンクマイエロヴァーは永眠し、彼女が制作に参加した最後の作品となった。制作過程の様子はDVDのメイキングに収録されている。
  • サヴァイヴィング・ライフ ‐夢は第二の人生‐ (2010年) - シュヴァンクマイエル自身が見た夢をモチーフとし、夢と現実を行き来する男が主人公の物語。2010年の第67回ヴェネツィア国際映画祭にコンペ外で出品された。

短編

  • シュヴァルツェヴァルト氏とエドガル氏の最後のトリック (1964年)
  • J.S.バッハ-G線上の幻想 ( 1965年)
  • 石のゲーム (1965年)
  • 棺の家 (1966年)
  • エトセトラ (1966年)
  • 自然の歴史(組曲) (1967年) - 原題は本来「博物誌」と訳されるべきだが、この邦題で定着している
  • 庭園 (1968年) - イヴァン・クラウスの短編小説「生け垣」が原案
  • 部屋 (1968年)
  • ヴァイスマンとのピクニック (1969年)
  • 家での静かな一週間 (1969年)
  • ドン・ファン (1970年) - ドン・ファン伝説をモチーフとした作品
  • コストニツェ (1970年) - チェコ語で「納骨堂」の意。人骨を大量に用いた内部装飾で有名なセドレツ納骨堂を描いた約10分間の白黒フィルム。ナレーションによる解説がある版とナレーションをジャズのBGMに置き換えた版がある。
  • ジャバウォッキー (1971年) - 原案及び冒頭で朗読される詩はルイス・キャロル『鏡の国のアリス』中の「ジャバウォッキー」より
  • レオナルドの日記 (1972年) - レオナルド・ダ・ヴィンチの素描などを自由な発想で切り紙アニメーション風に動かした作品。この作品により、前衛的作品を嫌う当時の社会主義政権下当局から映画の製作を以降7年間禁止される
  • オトラントの城 (1973年-1979年) - タイトル及び劇中の切り紙アニメーション部分はホレス・ウォルポールの『オトラント城奇譚』を元にしている
  • アッシャー家の崩壊 (1980年) - エドガー・アラン・ポーの「アッシャー家の崩壊」の朗読に映像を付けた作品。朗読者は後の「ファウスト」の主演俳優、ペトル・ツェペック
  • 対話の可能性 (1982年)
  • 地下室の怪 (1982年)
  • 陥し穴と振り子 (1983年) - エドガー・アラン・ポー「陥穽と振り子」、およびヴィリエ・ド・リラダン『希望』を原作とする。
  • 男のゲーム (1988年)
  • アナザー・カインド・オブ・ラヴ (1988年) - ヒュー・コーンウェルの依頼で作成された、シュヴァンクマイエル唯一のミュージック・ビデオ
  • 肉片の恋 (1989年)
  • 闇・光・闇 (1989年)
  • フローラ (1989年)
  • スターリン主義の死 (1990年) - BBCのドキュメンタリー映像からは、本物の豚の内臓や血液を使用していることが確認できる。
  • フード (1992年)

ドキュメンタリー

  • ヤン・シュヴァンクマイエルの部屋 - 1984年。
  • プラハからのものがたり (The Late Show: Tales from Prague)
  • シュヴァンクマイエルのキメラ的世界 幻想と悪夢のアッサンブラージュ

2015年にはカレル・チャペック・ヨゼフ・チャペックの戯曲『虫の生活から』をモチーフにした原題『昆虫』が公開予定となっている。